「冷めてもしっとりふわもち」のための検討
今回は、卵と小麦アレルギーがある子どものために、栄養価を満たし、食べやすく、かつ冷めても美味しい味を実現するために収集した情報について整理した内容をまとめた記事となります。
- 1. お弁当イベント発生
- 2. 小麦と卵という理想のタッグ
- 3. デンプンの老化問題
- 4. 老化防止酵素
- 5. 加工デンプン
- 6. アミロース含量
- 7. もち米パウダーの種類
- 8. 次回実験までの課題
1. お弁当イベント発生
2月某日。私達夫婦の前には、「子供のお弁当」という課題が立ちはだかっていました。きっかけは、保育園の調理師さんが濃厚接触者となってしまい、給食が停止したこと。それ故に、子供のためにお弁当を用意することになりました。
私達は既に、「高タンパク質おやき」や「高栄養パンケーキ」「高栄養蒸しパン」などのレシピを開発していましたが、いずれも「冷めると固くなってしまい、子供が食べない」という問題点を抱えていました。うちの子はおにぎりはまだ上手に食べることができません。保育園では各園児ごとに電子レンジをつかうことはできず、また、秘密兵器であったカロリーメイトゼリーについては、保育園側からもやんわりと「できれば別のものを......」と言われています。
そのため、以下の条件を満たす料理を考案する必要がありました。
- 卵、小麦アレルギーに対応している
- 手づかみ食べができる
- 適度なやわらかさやまとまりがあり、バラバラに砕けにくい
- 冷めてもおいしい
- 栄養価は、1日分の1/3をカバーすする
- できれば保存性のよいもので作りたい
そこで我々は、さらなるレシピ開発のために、食材の性質について学び直すことにしたのです。
2. 小麦と卵という理想のタッグ
そもそも我々にとっての禁じ手となっている、小麦と卵の性質についてまず確認します。スポンジケーキの生地は、私達が求めている「ふかふか」を維持している代表格といえるでしょう。
卵、特に卵白は泡立てると気泡を抱き込む性質を持っています。これを卵(卵白)の起泡性と呼んでいます。このとき、砂糖は卵の気泡を安定化させる働きがあります。
(中略)
小麦粉には、グリアジンとグルテリンというタンパク質が含まれており、小麦粉を水で捏ねると非常に弾力のあるグルテンが形成されます。このグルテンとデンプンが網目構造を作り、膨らんだ状態を支えています。
というわけで、これを簡単にまとめると、
卵の起泡性+砂糖による気泡の安定化
↓加熱
気泡の膨張
↓
膨張した構造をグルテンとデンプンで網目構造をつくり支持
※グルテンが多すぎると膨らみきらない
ということのようです。
しかしながら、卵アレルギーは卵白のほうが抗原が強く、小麦アレルギーは小麦のグルテンに反応してアレルギーが出ています。そのため、スポンジケーキのふかふかを構築するための2大巨頭が使用できない、ということになるわけです。
3. デンプンの老化問題
さて、小麦であろうとなかろうと、デンプンを扱う以上、意識しなければならないポイントがあります。それは、「デンプンは老化する」という点です。
デンプンには、いわゆる「美味しくなる」とされる「α化」という現象があります。これを専門的には「糊化」といい、水分とともに加熱することでねばりやとろみが出てくることのことを指します。
一方で、一度加熱したでんぷんには「冷めると美味しくない、ぼそぼそになる」という性質もあります。これをでんぷんの「老化」といい、*2によりますと、
一方、老化現象は、温度が低くなることにより、糊化したデンプンの鎖がよりエネルギー的に安定な状態に戻るためにお互い水素結合を作り、再び会合する現象と考えられている(図2)。日本語では、“老化”というが、英語では、“retrogradation” と呼ぶ。“retro-”とは“さかのぼって”、“gradation”は、“徐々なる変化”という意味で、デンプンが糊化した状態から、徐々に糊化する前の結晶構造に近い形に戻っていくという意味をとることができる。ただ、完全に糊化する前の結晶状態に戻ることができるわけもなく、一般に老化したデンプン食品は、食感が硬く、ぼそぼそとしたものとなり、見かけも透明感が失われ、離水が起きることもある。
とのことです。
我々が片栗粉(ばれいしょでんぷん)をベースに作っているおやきや蒸しパンやパンケーキなどもこの例外ではなく、やはり冷めると固くなったりぼそぼそになったり、パサパサになったりします。
デンプンの老化に影響を与える因子として、*3では4つの点が挙げられています。
1) 温度
水が凍結しない程度の低温が最も老化しやすいと考えられるため、食品を冷凍する場合は、この温度域を素早く通過させてあげることが必要である。
2) 水分
50~60%の時が最も老化しやすいと言われている。水分を極力減らした食品である即席麺やせんべいなどは老化が起きない。
3) アミロース含量
デンプンの成分としては、アミロペクチンよりアミロースのほうが老化しやすい。デンプンの種類としては、コーンスターチや小麦などの穀物系のデンプンのほうが、タピオカなどの芋系のデンプンに比べ、老化しやすい性質がある。
4) 共存物質
糖質や一部の乳化剤は老化を抑える効果がある。また製パンなどでは、β-アミラーゼなどのデンプン分解酵素とデンプンを併用することにより、老化を遅延させる工夫が取られる。
しかし、老化を完全に抑制することは難しく、加工デンプンを使うこととなる。
つまり、
- 水分を含ませて
- あつあつの蒸しパンやおやきを作り
- お弁当用に冷ます
行為は、できた料理のデンプンをさらに老化させる行為と言えます。
では、お弁当に必要な作成状況の中でもなんとかできる手段はないかについて検討しました。
4. 老化防止酵素
スーパーで和菓子を買っても固くなっていない理由、それが酵素です。
たとえば、大豆由来のβアミラーゼという酵素を使用してデンプンをやや分解することで、時間が経っても固くなりにくいようにすることができます*4。
しかしながら、やはり酵素はタンパク質でできているため、高温状態では失活してしまいます。例えばこのβアミラーゼは製菓用に市販品も販売されているのですが、こちらを見ても、耐熱温度は90℃までとなっています。
【楽天市場】【P3倍 21日20時〜28日9:59まで】 和菓子用老化防止剤製剤 ニューモチエース100 1kg(和菓子用小麦蛋白素材/老化防止剤):パン・製菓材料とはとむぎの半鐘屋
一度加熱し糊化した後のモチなどに混ぜ込んで使用するのにはいいのですが、おやきや蒸しパンなど、加熱しながら成形する食品には使用できません。
5. 加工デンプン
コンビニの冷やしうどんがいつでもモチモチしているのは、この加工デンプンを使用しているからなのだそうです*5。
加工デンプンには酢酸デンプンやヒドロキシプロピル化デンプンなどがありますが、こちらは市販品がみつかりませんでした。一般家庭でこれを使用するのは困難なようです。
6. アミロース含量
というわけで、一般家庭でできることは「アミロースの量を調整する」のが限界なのかもしれません。*6の表より、我が家で使用するデンプンについて着目してみたところ、
- うるち米(いわゆるご飯の白米):アミロース15-25%, アミロペクチン 75-85%
- もち米:アミロース0%、アミロペクチン100%
- ばれいしょ(片栗粉の原料):アミロース 20-22%, アミロペクチン 78-80%
- タピオカ:アミロース 16-17%、アミロペクチン 83-84%
「もち米最強」ということがわかりました。もち米はアミロースが含まれていないために、冷たい状況でももちもちを保てるため、白玉は冷たくてももちもちになるそうです*7。
つまり、もち米をメインで使用すれば、アミロースによる老化を可能な限り防ぎ、冷めてももちもちを保てると思われます。
あと、良かれと思って使っていた片栗粉が、「冷めてから食べるもの」に使用するのには向いていないくらいには、かなりアミロースが多いということも勉強になりました。調理してすぐ食べるシチュエーションでは片栗粉は便利ですが、冷めてから食べることを考える場合は、もち米由来のものを使用するのが良いでしょう。
7. もち米パウダーの種類
さて、ではもち米のアミロペクチンを材料として使用するにはどういう食材を買えばよいのか。
もち米をパウダーにしたものとしては、「白玉粉」が該当します。また白玉粉とは別に「もち粉」というものもあるようです。両者の共通点は、非加熱のもち米を製粉していることにあるようです。それぞれの特徴としては、以下のようになります。
- 白玉粉:粒子が細かい。やわらかい。冷やしても固くなりにくい。時間が経っても固くなりにくい。消化しやすい。やや高価。
- もち粉:粘性が高く、もちもちしやすい。
なお、「上新粉」はうるち米由来のため、アミロースが多いことになります。だんご粉は、もち米とうるち米のブレンドしたものだそうです。もち粉などと比べると、やや弾力が出るそうです*8。
実際にこの4つの粉を作成したページがありました。性質の違いが実例つきで見やすく参考になります。
何が違うの? 「上新粉」「白玉粉」「だんご粉」「もち粉」を自分で作る - ぐるなび みんなのごはん
白玉粉、もち粉、上新粉、だんご粉の違いを知ろう : Z-SQUARE | Z会
また、加熱しα化したもち米を製粉したものもあるそうで、下記のような種類があるそうです*9*10。
- 道明寺粉:蒸したもち米を乾燥し荒く砕いたもの
- みじん粉:道明寺粉を細かく粉砕したもの。
- らくがん粉:道明寺粉を炒ったもの
- 寒梅粉:蒸したもち米を餅にして焼き、粉砕し粒を揃えたもの
- 上南粉:蒸したもち米を乾燥→粉砕→200℃で焙煎し膨化させたもの
- しんびき粉:蒸したもち米を乾燥→粉砕→砂とともに焙煎。落雁などに使用
加えてこれらとはまた別に、「製菓用米粉」という枠があるようです(いわゆる洋菓子やパン用に販売されているもののようです)。これらにグルテンを添加して米粉パンや米麺を作る場合もあるようですね(そうすると小麦アレルギーの子は食べられない米粉パンになりますが......)。
8. 次回実験までの課題
というわけで、我が家の中では白玉粉に白羽の矢が立ったというわけです。
現時点での計画では、
- 寒天と砂糖で保水し(しっとり)
- ベーキングパウダーで膨らませ(ふわふわ)
- おからパウダーで厚みと構造を保ち(ふわふわ)
- 白玉粉を使用してデンプンの老化を防ぐ(もちもち)
という4段構えで、「冷めてもしっとりふわもち」を目指していきたいと考えています。上手く行ったら、別記事でレシピをまとめます。
【2022/3/25 追記】
→実験しました