タピオカ粉、白玉粉の比較実験

 今回は、「小麦と卵のアレルギーがあり小麦粉が使えない子供のために、代わりとして使いやすい粉はなにか」について実験を行った話をまとめました。

 結論としては「食感の好みと入手難易度と値段で選んで良いんじゃない?」ということになりそうです。なお私はタピオカ粉が好きです。

 

 これまでの経緯についてはこちらをご参照ください。

日持ちするレシピが必要となった経緯について、と、デンプンの性質についての話

fkfkn53.hatenablog.com

 

1. 実験の背景

 冷めても美味しい蒸しパンのレシピを開発するにあたって、試行錯誤を重ねる中で、「もしかしてタピオカ粉100%のほうが美味しいのでは?」という可能性に行き着きました。

 しかしながらこれはレシピ開発中の試行錯誤の中で観測したものだったので、今回は改めて(ほぼ)同一条件で作成しなおし、粉ごとによる性質の違いを並べて比較し再検証することにしました。

 

 なお、白玉粉、タピオカでん粉のどちらもベーキングパウダーを加えたときのほうが食味が悪かったので、今回はどちらもベーキングパウダーを加えずに作成しました。粉が異なっていること以外、ほかの材料は(ほぼ)同一条件で蒸しパンを調理しています。

 

2. 実験の材料

 以下の2種類の蒸しパン生地を用意し、シリコン型に入れ15分間蒸して調理しました。

 なお、実際の調理の手間を考え、実際の計測はg単位ではなく「スプーン単位」で計測を行っています。そのため、タピオカ粉白玉粉の重量は同一となっていません(白玉粉のほうが密度が高いため)。

 また白玉粉の重量が多いことに対応するため、タピオカ粉のレシピよりも+5ml水を多くしてあります。

 

(A)タピオカ粉レシピ

ぐんぐん(フォローアップミルク) 30g
ホエイプロテイン 7g
タピオカ粉 40g
ドライおからパウダー 6g
砂糖    25g
塩     小さじ1/8
チューブマーガリン 3g
あん   40g
水  60ml

 

(B)白玉粉レシピ

ぐんぐん(フォローアップミルク)  30g
ホエイプロテイン   7g
白玉粉   49g
ドライおからパウダー  6g
砂糖    25g
塩     小さじ1/8
チューブマーガリン  3g
あん    40g
水    60ml+5ml

 

材料にホエイプロテインを使用していることについては、こちらの記事をご参照ください。

fkfkn53.hatenablog.com

 

3. 蒸しパンの比較

(1)調理前

 白玉粉の密度が高いことにより、水を5ml多く加えていましたが、それでもなお白玉粉レシピのほうが、混ぜる際にやや固い感触がありました。

(2)調理直後の仕上がり

 調理直後、シリコン型から剥がす際の時点で、以下のような違いがみられました。

(A)タピオカ粉:シリコン型に付着が強く、一部付着が残る。

(B)白玉粉:シリコン型からの剥がれがよい。

 加えて、白玉粉のほうが「米くささ」が強く、合わせる味によっては相性がわるい場合も考えられました。

 

 また、実際にフォークで切ってみたところ、タピオカ粉のほうがやや強い抵抗感が得られました。

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切断時の断面の比較

 実際に食べた食感については、

(A)タピオカ粉

:ある程度柔らかさがあり、伸びはない。口の中で噛みちぎれるが、その際にもちもちとした食感が得られる。パサツキやボソボソとした食感は無い。口の中でバラバラになる感じはない。舌触りはしっとりしている。

 

(B)白玉粉

:ほどよい硬さがあり、噛み切ったときの歯切れが良い。タピオカ粉に比べもちもちとした食感は比較的少ない。

 

 といった違いがありました。

 

(3)調理から1時間後

(A)タピオカ粉

:調理直後と比較して、さらに弾力が増す。もちもちとした食感が強まる。ボソボソしたり崩れたりする様子はない。ベタつくような粘り気はない。

 

(B)白玉粉

:歯切れの感覚はタピオカ粉よりも少しだけ柔らかい。ただし調理直後よりも粘り気が出てくる。噛んでいると歯に付着するようなベタベタ感。全体のまとまりはよい。

 

 白玉粉の食感についてはいい表現が思いつかないのですが、青森県民としては「ねかねかする」という表現に近い食感をしています。キャラメルやソフトキャンディほどの粘着性ではないのですが、それの方向に近い付着感はあります。

 

 個人的な好みの問題にはなりますが、タピオカ粉に関しては「冷めてからのほうがもちもちして美味しい」というくらい、もちもち度が増しています。この点については、作り置きして時間をかけて食べる、という本来の目的と合致していると考えます。

(4)調理から7時間後

(A)タピオカ粉

:1時間後とあまり差がない。歯切れがよく食べやすい。適度に弾力がある。ボロボロくずれる様子はない。押しつぶすと弾力により元の形に戻る。潰してもかけらがこぼれる様子はなく、まとまりがよい。

 

(B)白玉粉

:こちらも、1時間後とあまり差がない。「ねちっ」とした歯切れ感。とはいえ食べやすい範囲。こちらは押しつぶすと元に戻りにくく、凹んだままになる。しかし砕けてボロボロにくずれる様子はない。潰してもかけらがこぼれる様子はなく、まとまりはよい。

 

4. 食感の違いを生む理由についての考察

 ここからは、今回の実験を行うにあたって調べた内容について記載していきます。

文献としては主にこちらを参考にしています。

 

 でん粉は、そのできる環境によって地上(穀類)と地下(イモ類)の大きく2つに分けられるそうです。下記に、文献の内容について表形式でまとめたものを添付します。

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地上デンプン、地下デンプンの性質の違い

 今回使用した白玉粉はもち米からできているので「地上(穀類)デンプン」に、タピオカ粉はキャッサバからできているので「地下(イモ類)デンプン」に分類されます。この、「どこでできたデンプンか」という点は、老化のしやすさにも影響することについては、前回のブログ(「冷めてもしっとりふわもち」のための検討 - 子育て備忘録)でも言及しています。

3) アミロース含量
 デンプンの成分としては、アミロペクチンよりアミロースのほうが老化しやすい。デンプンの種類としては、コーンスターチや小麦などの穀物系のデンプンのほうが、タピオカなどの芋系のデンプンに比べ、老化しやすい性質がある。

 

 今回使用した白玉粉は、もち米からできているためアミロペクチン100%であり、アミロースを含まないため老化はしにくいのですが、アミロースを含んでいるはずのタピオカ粉白玉粉と互角の食感を保っているのは、イモ類デンプンゆえの老化しにくさのためであると考えられます。

 

 ちなみに、このような「地上/地下デンプンの老化のしやすさの違い」の原因としては、*1によりますと、地上(穀類)デンプンは、地下(イモ類)でん粉と比べると内部油脂含量が高いことも影響しているとのこと(p104)。

*2によると、米デンプンに含まれる脂質は、うるち米・もち米ともに1%前後なのだそう。

 タピオカでん粉に含まれる内部油脂の正確なデータは得られませんでしたが、100gあたり0.2g*3というデータもあることから、そこから計算すると0.2%と推測されます。

 

 そのため、おそらくタピオカ粉と同程度のアミロースが含まれている地上(穀類)デンプンを使用しても、同様の食感は得られないことが考えられます。

 

 *4の図を下記に引用します。これはあくまで小麦粉に何のデンプンを足すとどう食感が変化するか、という図になります。しかしこれを参照すると、「タピオカでん粉では硬さは同程度で粘りが増す」「もち米デンプンでも粘りはやや増すが、柔らかくなる」といったことが読み取れます。

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 今回実験で作成した蒸しパンも、タピオカ粉のほうがより弾力があり、白玉粉のほうは弾力に乏しい食感がみられました。この違いが、上記における「硬さ」の指標に近いのかもしれません。

 

 *5では、米粉どうしでの物性を比較しています。こちらを参照しますと、白玉粉の粘度は最大でも250RVU程度のようです。これは、砂糖を追加しても粘度に大きな変化はみられませんでした。またこの他に、白玉粉の特徴として、「柔らかく、凝集性は高い(=まとまりがよい)が付着性が低い(=ベタベタしない)」という特徴があるようです。

 

 上記の「付着性の低さ」は、白玉粉蒸しパンをシリコン型から剥がす際に付着がなかったことからも裏付けられるかもしれません。また、凝集性の高さは「ねかねか」した食感につながっているかもしれません。

 

 *6の方でも、もち米とうるち米の粘度を比較しています。もち粉と上新粉に相当する粉を使用して比較したようです。

 ※白玉粉はもち粉よりもやや精製されたものになります。

 こちらの論文によると、もち米粉の粘度は最高で200BU程度、うるち米粉では800BU程度の粘度があったようです。この結果だけでは「うるち米のほうが粘りがある」ことになってしまうため、やや違和感があります。

 しかしここから更に精製してデンプンの粒にまでしてしまうと、今度は逆にモチデンプンで420BU、ウルチデンプンでは160BUとなり、モチデンプンのほうが粘度が増したとのことです。

 

 では、タピオカでん粉の粘度はどうかと言いますと、*7のp68のグラフによれば、タピオカでん粉は1000BU程度の粘度を持つそうです。片栗粉(=ばれいしょデンプン)は3000BU近くあるため、それに比べればさほど粘度が高くないようにもみえますが、それでもなかなかの値です。

 ↓こちらのページでも同じグラフを確認することができます。

#276 でん粉の性質その⑤ | 木下製粉株式会社

 またタピオカでん粉では砂糖を添加すると粘度が上がり、また冷却してもその粘度が失われにくいという性質もあります。(p83)これにより、糊化してから放置してもゲル化しにくい(p32)ことから、時間が経っても「もちもち」を維持できるのかもしれません。

 

 上記の値については、同様の条件で実験を行っていないことから単純に数値の大小だけで比較することはできませんが、「実は白玉粉ってタピオカでん粉に比べたら粘度が低いのかも?」くらいのことは予想できそうですね。

 

 「粘度」や「硬さ/やわらかさ」、「凝集性」や「付着性」といった指標が、実際の食感とどのように関連しているのかについての詳細は見つけられませんでしたが、これらの違いが今回のような食感の差を生み出したものと予想されます。

 

5. 値段

 さて、持続性について考えるときの重要な要素として価格という問題があります。

 ざっと調べた限りですが、白玉粉はその工程に一手間かかっている(水に漬ける→すりつぶす→搾る→晒して乾かす→砕く)こと、また穀類であることからやや高価な傾向があるようです。

 その一方で、タピオカ粉はおおよそ片栗粉(ジャガイモデンプン)と同程度の価格で販売されています。GABANなら1kg 800円しないくらい。

 理由は、タピオカ粉の原料となるキャッサバは東南アジアなどで多く作られていること、そして芋部分が大きくて収量も多く、かつデンプン以外の成分が少ないため、精製しやすいなどの理由から、比較的安価で販売されているようです。

 

6. 結論

 実際に作ってみて思いましたが、どっちもそこそこ美味しかったです。どちらも7時間経ってからでもそれなりに美味しく食べられたことを考えると、作りおきの食料としてはかなり優秀なのではないでしょうか。

 なので、どちらの粉を使用するのかについては、完全に食感の好みと粉の入手難易度や値段で選んでいいのでは?と思いました。

 なお私はタピオカ粉のほうが食べやすく、無臭で、そして安かったので、しばらくはタピオカ粉を使用すると思います。

*1:高橋 幸資, 『でん粉製品の知識 改訂増補』

*2:間野 康男, 藤野 安彦『米澱粉中の結合脂質』, 澱粉科学 22巻 (1975) 1 号

*3:日本食品標準成分表

*4:高橋 禮治,『デンプン質食品の食感』高分子, 2001 年 50 巻 10 号 p. 711-714

*5:高橋 節子, 近堂 知子, 平尾 和子『和菓子用米粉の物性と調理法に関する研究』, 日本調理科学会誌/46 巻 (2013) 2 号

*6:庄司 一郎 , 倉沢 文夫 『米ならびにでんぷんのアミログラフによる粘度特性について』, 家政学雑誌 32(3), 167-171, 1981

*7:高橋 幸資, 『でん粉製品の知識 改訂増補』