イヤイヤ期と偏食についての考察 - 警戒心の発達から
2歳半を前にして、我が子には偏食が出てきました。しかしそれは単に「イヤイヤ期に入った」と処理するのでは乱暴では、と思う場面が多々在りましたので、私なりの考察をまとめたいと思います。
1. 警戒心の発達
1歳〜1歳半の頃は、警戒心よりも楽しさが勝っている時期のようでした。そのため、
- 1歳前からスノーボードで滑り降りるのを楽しむ
- 1歳半で高さ2mのすべり台を自分で昇って滑ることができる
- 美味しいとわかった食品であれば自分から食べる。
といった傾向が見られていました。
しかしながら、2歳を過ぎてくると、そこに変化が出てきました。
- 2歳2ヶ月ごろ、「道路に車が来たときはあぶないから、車道を歩かない」と教えた所、交通量の多い道路や広い駐車場(車が常にどこかで動いている)を移動する際には、ママに抱っこを要求するようになった。
- 2歳3ヶ月ごろ、水族館のタッチプールでママがカニに挟まれ「痛い!」と言いつつも差し出したカニやホタテに対して、怖がって触ることができなかった。
- 2歳3ヶ月ごろ以降、ママと一緒じゃないとすべり台を滑ることができなくなった。
- 2歳5ヶ月ごろ、セミの幼虫の抜け殻を差し出されるとしばらく逃げ回ったが、それが動かないものだとわかったら自分から触ることができた。
上記のような変化が見られるのと同時期から、食事に対する偏食も出てきました。
- 2歳0ヶ月ごろ、「ふりかけご飯しかたべない」日が出てくる。
- 2歳1ヶ月ごろ、朝食の拒食も見られる。
- 2歳4ヶ月前、保育園の給食を一口も食べない日が出てくる。自宅ではふりかけご飯(アンパンマンふりかけの赤指定)しか食べない。
- 2歳4ヶ月、経口負荷試験で8時間絶食したものの検査食(加熱卵黄と砂糖をまぜたもの)を一切食べず、その後6時間拒食。
- 2歳5ヶ月、食べたいもの以外は一切食べようとしない。つまんだり観察したり、舐めたりはするものの、食べることはできない。
- 2歳5ヶ月、初めて見た「オレンジ色のメロン」をとても警戒し、怖がって食べようとしない。オレンジ色のメロンを見て3日経ってようやく4口ほど食べられるようになった。
- 2歳5ヶ月、冷蔵庫に入っていた見たことのないゼリー飲料を発見してから、それを自分から「飲む」と言い出すまで、5日ほどかかった。
2. 偏食の機序と考察
(1)警戒心の解除ができない
この、2歳半になるにつれ出てきた子供の偏食については、私自身は「警戒心の強まりが食事に対して表れた状態だろう」と考えています。もちろん、感覚過敏の可能性も残っているのですが。
例えば、上記の警戒心の強いエピソードについても、以下のように考えることができます。
- 道路で抱っこされたがる→[考察]自分では道路上の安全性を判断できないので、常に車が動いている場所ではいつ歩いて良いのかがわからなくなって混乱するようになった。そのため親に判断してもらう=抱っこしてもらおう、という行動を取るようになった?
- カニやホタテに触れない→[考察]「触ると痛い」ものは触ってはいけない、という以前の学習結果を優先したが、親が痛いものを触ることを勧めてきたので混乱した?
- すべり台が一人では滑れない→[考察]すべり台の危険性が予測できるようになり、怖がるようになった?
- セミの抜け殻に逃げ回る→[考察]それが安全なものだと証明されるまでは回避する行動をとるようになっている?
このように考えると、2歳を過ぎてから「危険度の予測」「親の指導を元に学習」という能力が発達してきていると私は考えます。その点については、私自身は「よく親の言葉を聞いてちゃんと学習して、身の安全を守ろうとする行動ができる子だな」と受け止めています。
しかしながら同時に、学習の結果得られた「警戒心」を、言葉上の説明を聞いて緩めることができるだけの、不安を抑制する能力がまだ未発達なのでは?と私は考えています。
例えば、普段は「虫や生き物に不用意に触れると怪我をする(触るとタイタイだよ)」と教えているにも関わらず、いま目の前でママがカニを触って「いたい!」と言い、その上で「触っても大丈夫だよ」と伝えて触らせようとするのは、子供から見ると二律背反になります。
親がまだ痛がっていないならまだしも、いままさに目の前で親がカニに指を挟まれて痛がっていた直後に、「触っても大丈夫」と言い出すのは、「生き物を触るとお手手痛くなるから触っちゃだめ」という日頃の指導と矛盾します。それならば確かに、怯え混乱したような表情で逃げ回るのも納得できます(この時の経験については、親の方でも深く反省しました)。
しかしながらこのエピソードからは、「今だったら触っても大丈夫だよ」という、その場ごとの条件変更といった、複雑な事象を処理できないという子供なりの未発達さの表れでもあると考えます。前述のように、「一時的には触ると痛い思いをするものではあるけれど、状況が変化して、触っても痛くない状況になったので、今は触っても大丈夫」といったような、言葉上の説明を聞いて警戒心を緩める、というのがまだ発達段階として困難な様子が感じられます。
(2)脳の発達時期
不安や恐怖、警戒心を抱いたときに、言葉上での説明を受けて、「それならば大丈夫だ」と安心できるようになるには、複数の前提が必要になります。
- 言葉の意味を十分理解できること
- 自分が感じている不安や恐怖、警戒心などの感情を、言葉での理解を元に抑制できること
この2つの前提をクリアしなければ、ここを克服するのは困難でしょう。これをせずに動けるのは、むしろ「警戒心を抱いていない状態(理解をしていないため、危険度を予測できない)」と言ったほうがよいかもしれません。
ちなみに、不安や恐怖を司る脳の部位は扁桃体と言われていますが、これを抑制する部分が前頭前野と言われているそうです。
扁桃体の興奮を抑える前頭前野の働き:感情はどこから? 実は生存をかけて脳が下し…|NIKKEI STYLE
そして前頭前野が発達する時期については、文献により記述にばらつきが見られますが、5歳ごろからとするものもあれば、8歳ごろからという下記のような記載も見られます。
上記の情報を元に仮説をたてるとするならば、「こわい」という感情を抱いたときに、それを「でも大丈夫」と自分で思えるようになるには、おおよそ5-8歳以降の脳の発達を待つ必要があるのでは?と考えることができるのではないでしょうか。
(3)偏食と警戒心
日頃の行動の中でも警戒心が強まっていく時期と連動して、食事に対する警戒心が強まった結果、「偏食」という形で出力されているのが現状である、と私は考えています。
本人が「これは安全だ」と思えたもの以外の食べ物、例えば初めて食べるモノなどは、親がいくら言葉で安全性を伝えたところで、それが本人にはなかなか伝わらず、その食材に挑戦することができません。例えば以下のようなシーンです。
初めて食べる食材(野菜、果物など)を差し出しながら
ママ「食べてみる?美味しいよ?ほら!」
パパ「おいしいー!」
ママ「ね、パパもおいしいんだって!食べてみようよ、ね?」
子供「いや!ないない!」
これもまた前述の、「言葉での理解を元に不安を抑制する」機能がまだ未熟だから、という機序で説明できます。
またうちの子の場合は、卵と小麦のアレルギーがあり、未だ完全除去をしている段階です。誤食をするだけでも危険があるため、本人が「食べたい」と望んだものをとっさに取り上げたりするシーンも少なくないのが実情です。
そのため、「親が食べているからといって、自分も食べていいわけではない」という学習をしてしまう場面も少なくないのが実情です。親の食事まで全てアレルギー対応にすると、食費や労力がとんでもないことになってしまいます。
3. 親側の受け止め方(虫を食べるようなもの、という考え方)
子供の脳が未発達ゆえに未だ受け入れられないものがある
+
「いや」と拒否を表明できるようになる
このために、「イヤイヤ期」に「偏食」が始まると私は考えています。
そこで、この時期の子供が食事に対して抱くイメージを大人側が理解しやすくする考え方として、
「子供にとっては、全ての食材が昆虫食に見えている」
という捉え方をしてみるのはどうでしょうか。
子どもたちにとって、初めて食べる食品、食べ慣れない食材に対して恐る恐る触れる様子は、大人(多くの日本人)に向けて、山盛りの食用昆虫料理を差し出されたようなもの、と考えてみるのはいかがでしょう。
いくらそれを食べるのが地元の文化で、それを食べ慣れれば平気だし、その上美味しかったとしても、急にはたくさん食べられないのが実情だと思います。
食べ慣れない食材(野菜など)を差し出されたときのうちの子の仕草を見てみると、
- まずはつついてみる
- 指先でつまんでみる
- つまんだ指を舐めてみる
- 指で持って舌で少しだけ舐めてみる
- 端っこだけ少しかじってみる
- 口の中に入れてから吐き出してみる
といった動作をしたりしています。大人から見て食べ慣れた食材に対してそうした動作をするのは違和感があるかもしれませんが、もしも昆虫食を食べ慣れていない大人に対して昆虫料理が出されたら、大人も同様の仕草をするのではないでしょうか。
その上、子供には脳の発達の関係から、「食べても大丈夫だよ、食べたら美味しいよ」という言葉によってその不安を解除する機能がまだ未発達なのです。そこの壁を乗り越えるには、大人が虫を食べる以上にかなりの勇気が要るのではないでしょうか。
4. 食事は複雑な行動の総合作業
以前のブログ(下記リンク)にも記載しましたが、食事という行為は複雑な課題をクリアしなければならない総合的な作業といえます。
例えばいまの2歳半の子供にとっての食事における課題としては、
- 日々の生存に必要なエネルギーや栄養素を摂取する
- 見知らぬ食材に挑戦する
- 食材の匂いや味、色や質感に慣れる
- 咀嚼、嚥下の運動機能を鍛える
- 食事のリズムを作る
- 自分の体の中にある感覚と、それを「空腹なのだ」と理解し結びつけ、言葉や仕草で主張する
- 自分の食べたいものを指定し訴える
- アレルギー源を摂取しないように注意する
といった複数の課題がある状況です。毎度の食事において、「好き嫌いせずに初めて出されたものでも何でも食べる」というのは、これらの課題を同時にクリアしているようなものです。
うちの子の場合は、上記の課題を一度の食事で毎回同時に達成するのは難しいので、一つずつ挑戦することにしました。まずベースラインとして、「1. 日々の生存に必要なエネルギーや栄養素を摂取する」を優先することにしました。
上記のレシピで作ったおやつは、今の所食べていてくれます。これで栄養を下支えしつつ、「4. 咀嚼、嚥下の運動機能を鍛える」のもある程度維持されているといいな......と願っています(この他に食べているものは、流動食やなめらかなものばかりとなっているのが実情です)。
そして基本的な栄養を確保した上で、「2. 見知らぬ食材に挑戦する」ことに、毎日少しずつ挑戦する方向にしようと考えています。この辺の考え方については、離乳食を食べてくれない時期の栄養管理のときと似たようなプロセスとなっています。
とにかく、「離乳食に必要な栄養はミルクに混ぜて補いながら」「時々小児歯科に相談したりしつつ」「子供の発達をひたすら待つ」という、時間稼ぎ作戦で行ってみる、という考え方はいかがでしょうか。
このときの発想に基づき、今回の「イヤイヤ期と偏食」の時期も、本人の前頭前野の発達を待ちながら過ごす方針で言ってみようと思っています。もう少し言語的コミュニケーションが豊かに取れるようになってきたら、今よりも言葉による説得や説明が通じやすくなるかも知れません。
5. それでもだめなら
発達を待ち、言語的コミュニケーションの成長を待ち、言葉でのやり取りができるようになった上で食べられないものがあるのならば、そのときは、食べられないものの理由を言葉にしてもらう、という対応が必要だと考えます。
たとえばそこで、色や食感がだめだ、特定の刺激が苦手だ、ということになれば、そのときは感覚過敏を疑い、発達障害などの対応につなげていくことを考えることになるでしょう。
現段階ではそのへんの説明がまだ難しい時期ですので、この件についてはさらなる成長を待ってから判断したいと考えています。
6. まとめ
あくまで子供の食事以外での行動と食事に対する行動を紐付けた上での推測の記事ですが、お子さんの行動を解釈する一助になりましたら幸いです。