自宅における卵黄経口摂取 覚書

我が子には卵アレルギーと小麦アレルギーがあります。

それに関しての経緯と自宅での注意点について自分用にまとめようと思います。

 

――これは実話であり、関係者による記録と分析、関係者の証言を元に構成しています。

 

1. これまでの経緯

2020年3月出生

その後、生後4〜6ヶ月ごろから、卵や小麦を摂取すると、摂取から数時間後に頻回の嘔吐がみられる様子があった。

 

2020年11月(生後8ヶ月)

プリックテスト(抗ヒスタミン剤内服下)で卵白、卵黄、小麦で陽性

抗ヒスタミン剤内服下で実施されたのは、当時担当していた先生の確認ミスによるものです。

→完全除去を継続

 

【採血データ】2021年3月(生後12ヶ月)

  • 卵白 43.4 UA/mL
  • オボムコイド(耐熱性卵蛋白)2.79 UA/mL
  • 卵黄 12.7 UA/mL
  • 小麦 23.4 UA/mL
  • ω-5グリアジン 4.93 UA/mL

 

2021年8月(1歳5ヶ月)

卵白での食物負荷試験を実施。

(卵黄ではなく卵白から開始したのは、採血上の数値や乳児期での嘔吐の反応が卵白のほうが弱かった経験があったため、保護者の方から依頼)(FPIESの可能性を考慮したため)

→0.5g刻みで30分おきに摂取。加熱卵白1g食べたところで全身の発赤、掻痒、咳嗽、尿量低下、酸素化低下などあり。(酸素吸入あり、アドレナリン投与なし。血圧は抵抗が強いため測定せず)

 →卵白の完全除去継続

 

【採血データ】2021年10月(1歳7ヶ月)

  • 卵白 69.6 UA/mL 
  • オボムコイド 38.4 UA/mL
  • 卵黄 13.3 UA/mL
  • 小麦 30.2 UA/mL
  • ω-5グリアジン 6.17 UA/mL

→卵白の感作がさらに進んだと考えられた。

 

2021年11月(1歳8ヶ月)

卵黄での食物負荷試験を実施

→加熱卵黄1/2個分を摂取しても症状なし。

 (翌日は腰部に発疹出現)

 →これ以降、「自宅でも加熱卵黄1/2を週2回まで。体調がいいときに実施」と摂取の指示あり。

 

2. 自宅での「加熱卵黄」の作製

 11月末に経口負荷試験で卵黄完全除去が解除されたが、以降も風邪やら湿疹やらが頻発し、なかなか挑戦する機会がなかった。

 2022年2月8日(子供は1歳11ヶ月)、夫が以下の手法で「固茹で卵」を作製。

  1. 冷蔵庫から取り出した冷たい卵を
  2. 冷水に入れて
  3. ガスにかけて煮沸
  4. 100均で販売されている「ゆで卵タイマー」を参考にし「固茹で」のサインが出たところで加熱停止
  5. すぐに卵白と卵黄をとりわけ、卵黄についていた卵白も剥離。割面は肉眼で「固茹で」だった

 上記の「加熱卵黄」を、一度冷凍したのち、5時間後に約1/8個ぶんを取り出し、子供の夕食に混ぜ込んで摂取させた。

3. 激しい嘔吐

 子供の食前の体調は非常に健康そのもので、機嫌もよく、食欲も旺盛。18時半ごろに摂取。摂取中に皮膚症状などはなく経過。

 摂取から2時間半後、21時ごろから不機嫌そうな啼泣の後に激しい嘔吐が頻回に続く。嘔吐のあとは度々水分を欲しがるが、水分を摂るたびに10-30分で再度嘔吐してしまう。嘔吐後も皮膚症状なく経過。体温36.7℃。

 22時半に吐き気止め目的で五苓散坐剤を挿入するも、なお嘔吐が続く(これまでの経験上、感染性胃腸炎であれば挿入後1時間後には嘔吐が治まっていた)。嘔吐は0時過ぎまで続いた。30-40cc摂取しても30分後には嘔吐してしまう状況。

 0時すぎに病院受診し(受診後も嘔吐有り)、1時からアタラックス-P®と補液の点滴を開始。点滴刺入時、激しく泣いて抵抗したが、流涙見られず。受診時体温37.4℃。

 点滴が30mLほど入ったあたりから、水分を経口摂取しても吐かなくなった。30分以上かけて280ccのりんごジュースを飲みきり、その後は薬の影響もあり入眠。抜針時には流涙も見られた。

 

4. 推奨調理方法の確認

 一般的な「固茹で卵」の調理時間としては、下記のように「12分」程度が推奨されている。

ゆでたまごの作り方(半熟から固ゆでまでのゆで時間のまとめ):白ごはん.com

 

 一方で、「厚生労働科学研究班による食物経口負荷試験の手引き2020*1」によると、

卵黄1個をつなぎとして使い調理したもの

:生の状態で卵黄だけを取り出して全量を調理に使う。蒸し焼きにするなど十分に加熱し、卵によく火を通す。

 

固茹で卵

:沸騰後20分茹でる

と、記載されている。

 また、周知の事実として、「固茹で卵は作成してすぐに卵黄と卵白を分離することで、卵白に含まれるアレルゲンが卵黄に移行することを防ぐ」ことができる*2

 また、下記*3によると、

調理法別に検討した全卵50g中において、生卵と比較した場合の抗原残存率

(1)卵白アルブミン(OVA)

  • 12分 固茹で卵 : 0.01%
  • 20分 固茹で卵:0.005%

(2)オボムコイド(OM)

  • 12分 固茹で卵:11.77%
  • 20分 固茹で卵: 6.12%

と、茹で時間12分と20分の間では、残存する抗原の量にはおおよそ倍の差があると記載されている。

 

5. 再検証

 そこで我々は、夫が実際に作成した「固茹で卵」が何分程度加熱されたものであったのかについて、同様の手法で再度作成し検証することにした。

  • 冷水→沸騰までの時間:10分
  • 沸騰→「ゆで卵タイマー」に「固茹で」のサインがでるまで:6分
  • その後、肉眼的に割面を観察したところ、中心部にやや加熱が不足:初回に作成したものは肉眼的には内部まで加熱されているように見えたため、実際にはもう少し長く加熱していた可能性あり。
  • 卵黄1/8:残っていた冷凍卵黄を実測したところ、平均で1.7g

 「冷水から加熱」という開始条件の違いはあるものの、「沸騰してから20分」という加熱時間と比較すると、明らかに加熱時間が不足していた。初回作成時を振り返り、夫も「これより1,2分長くなることはあれど、ここから更に5分10分茹でたりはしていなかっただろう」と振り返っている。今回初回に作成した「固茹で卵」は、最短でも16分、沸騰してからは最短でも6分の加熱しか行われていなかったと考えるべきであろう。(なお、実際に子供が食べた分を作成した当時は、他の家事を並行しながら行っていたため前後数分のズレがあったと予想される。)

 

※「沸騰」の定義については下記を参考に修正しました。

沸騰の判断基準は? 料理の出来を左右する泡の大きさについて | 台所通信

 

6. 受診

 同日朝にかかりつけ小児科医を受診し、以前からの経過も含めた上で、「昨夜の嘔吐はアレルギー反応だったと解釈しても良い」との返答を得た。また、「再検証は1週間以上開けてから」「自宅で再検証しても同様の症状がまたみられるようであれば、病院で再度経口負荷試験も検討」との指示もあった。

 なお、点滴実施以降は嘔吐もなく食欲も旺盛で、機嫌よく遊んでいる。また軟便傾向はみられたものの、下痢や発疹、発熱などの症状はみられていない。

 また、実際に卵黄での食物経口負荷試験を行った際に提供された「蒸しケーキ」の調理方法について、病院の栄養科に問い合わせていただいたところ、下記のように作成しているとのことだった。

材料:かぼちゃ(皮取り)、卵黄1個、砂糖4g

 

7. 家庭における「(仮称)医学的固茹で卵」の製法(改訂版)

 結論としては、「加熱が不足していた固茹で卵黄を摂取したことによるアレルギー反応」の可能性を第一に考えるべきであろう。

 なお他の可能性としては、卵白が混入した(後述)、前回負荷試験以降に反応が強くなった、なども考慮される。

 

 今後、自宅での卵黄摂取については、下記の手法で実施を検討している。

【(仮称)医学的固茹で卵】

  1. 水を鍋に入れ、沸騰させる
  2. 沸騰してから卵を入れる
  3. 20分間茹でる
  4. 卵を取り出し、黄身と白身に分ける
  5. 取り出した黄身を細かく刻む
  6. ジップロックコンテナに入れ冷凍
  7. 使用する際は重量を計測してから使用(0.5g/日程度から開始予定)

 この条件で作成した「卵黄」を、各種食材に混ぜ込んで様子を見る。

 上記条件でも症状が見られた場合は、病院でのスチームコンベクションオーブンを使用したレシピを再現し、自宅で検証予定。それでも症状が出るようであればかかりつけ小児科に再度相談の方針。

 

 なお、茹でる前の卵に関しては、冷蔵庫から取り出してすぐのものを使用することで、事前の温度条件を一定に保つことが可能となる。

常温にもどさず、冷蔵庫から出したての卵を使う

常温は季節によって温度が異なりますが、冷蔵庫の卵は温度がいつも一定しているため、毎回思った通りの固さに仕上げることができます。

お湯からゆでて理想の固さに!ゆで卵の基本レシピ | 卵料理の基本 | 料理の基本 | とっておきレシピ | キユーピー

 

 実施時は以下の条件も満たすようにする。

  • 風邪や肌荒れなどの症状がない時期を選ぶ
  • 事前に休暇を申請し二人体制を確保
  • 平日午前中に開始
  • 実施1時間前には抗ヒスタミン剤を服用させる

 

 なお、「加熱した卵黄を冷凍した場合における抗原の変化」についてはまだ十分な情報が見つかっていないため、発見し次第補足する予定。

 

 上記内容を実施した結果を後日更新予定。

 

8. 卵白の混入の可能性についての検討

 2021年8月(1歳5ヶ月)時点で実施された卵白の経口負荷試験では、加熱卵白1gの摂食で発赤や掻痒、咳嗽などの症状が見られており、嘔吐などの症状は見られていない。

 その時点で卵白による症状の可能性は積極的には疑われにくいが、調理の工程の問題として、微量であっても卵白の混入は生じうる。

 *4によると、

卵黄に残留した卵白と卵黄膜の合計量は0.7g (0.6~1.0g, n=6) 

との結果が得られている。

 仮に今回作成した卵黄に1gの卵白が残存していたと考えた場合、1/8個に分割しているため、概算し0.125gの卵白が摂取された可能性は考えられる。

 実際の卵白の経口負荷試験時では、0.5gの摂取では「やや不機嫌になる」程度の症状のみが見られており、今回のような嘔吐などの症状は確認されなかった。ゆえに、それ未満での卵白摂取で今回のような症状が出たとは考えにくい。

 以上より、今回の発症においてより疑わしい可能性として考えられるのは、「卵黄の加熱不足」であると推察される。

 

9. 背景因子についての考察

 以下に、「なぜこのタイミングで」「なぜこの状況で」発生したのか?についての考察を記載します。

(1)心理的要因 - 楽観的予測のきっかけ

 今回記載した、「(仮称)医学的固茹で卵」のレシピについて、離乳食を作ったことがある方ならば見覚えがあるかと思います。そう、「離乳食初期の時期に卵黄からトライする場合の調理法」として紹介されていることが多いですね。

離乳食での卵の食べ進め方 – 小児科オンラインジャーナル

20分程度しっかりゆでた卵の卵黄だけを取り出して、離乳食のスプーン1杯分くらいあげてみましょう。ゆで卵黄を準備する際、卵白の成分が卵黄に溶け出して移ってしまう事がありますので、ゆでた後の卵黄はすぐにとりわけます。

卵を使った離乳食の進め方を教えて下さい。|Q&A|パルシステムの育児情報サイト~子育て123~

卵は加熱するとアレルギーを起こす力が弱くなるのと、卵白でアレルギーを起こすことが多いので、20分間ゆでた、かたゆで卵の卵黄から試しましょう。

 実を言うと、私自身も今回のことがあって原因について考えていた際、一晩寝てから真っ先に思いついたのがこの「離乳食初期における茹で時間」についてでした。(そういえば20分っていうのなかったっけ......)程度のうろ覚えでしたが。

 けれど夫が固茹で卵を調理していた際にそれを指摘できなかったのも事実です(私は発熱で寝込んでいたという背景もあります)。

 

 もしも夫が今回のミスを回避するチャンスがあったとしたら、1歳11ヶ月の子供の、完全除去から摂取開始に変更された直後に、自宅で食べる卵黄として「離乳食初期用の作り方を確認しなきゃ」という着想が得られたか、というのがポイントになったのかもしれません。

 けれど、食物経口負荷試験を経験している以上、離乳食を始めたばかりの乳児のような「一番最初に食べる卵黄」というわけでもありません。

 ましてや、病院での経口負荷試験では「卵黄1/2個分」を食べることができていたのです。耳かき1杯分程度の微量な量だけ食べられた、なんて結果なら神経質にもなるでしょうが、これまで完全除去をしていた食材が1/2個も食べられた、という結果は、「けっこう行ける」という感覚を抱くに十分な結果だったのでは?と予想します。

 卵黄の経口負荷試験当日は、夫が保護者として同伴し、子供が蒸しケーキをもりもり食べて、食べ飽きてしまうところまで見ていました(食べ飽きてしまいそれ以上食べなかったため、卵黄1/2個分で試験は終了となりました)。食べ終わった後も特に症状が出ることもなく、元気に遊び回る様子を見て、「まだまだ食べられそう」という期待感すら抱いたことでしょう。

 アレルギー症状が非常に強く出た卵白の経口負荷試験の際は私(妻)が同伴したため、夫は強いアレルギー症状を実際に見ていなかった、という要素も関係していると思われます。

 

 実際、(厳密な加熱時間の指導がなかったらしい様子を見ると)その「けっこう行ける」という感覚は、もしかすると小児科医の先生側にもあったのかもしれません。

 *5を参照しますと、今回の場合は「もともと完全除去例」だったが、卵黄での負荷試験の結果は陽性(アレルギー症状らしい症状が検査後に出現しない)ではなかったことから、「陰性・判定保留」と判断されたと考えられます。また、その場合の対応として、

  • 総負荷量を超えない範囲までを「⾷べられる範囲」とし、⾃宅でも症状が出現しないことを確認する。
  • 安全性を配慮し、許容量は「⾷べられる範囲」の上限より少なめに設定すると良い。

といった記載があるため、これに従い「自宅でも加熱卵黄1/2を週2回まで。体調がいいときに実施」という指示が出たと考えられます。

 

 今回の件の直後、夫が「こんなにひどい症状がでるとは思わなかった」「もっと軽く済むと思った」とこぼしていたのも、そういった食物経口負荷試験時の印象が強く残っていたことが原因の一つとして関与していたことを疑わせます。

 

(2)時間的制約と、ダブルチェック機構の破綻

 上記の考察をもとに、後日、当事者(夫)に聞き取り調査を行ったところ、以下のようなコメントが得られました。(本人の許可を得て掲載します)

  • まず第一に、ゆで卵作製前の時点で、失敗した時のイメージが一切持てていなかった。楽観的予測があった。
  • 「もしも家庭内でアレルゲンを摂取するとなった場合、家庭内に人員的バッファが必要な状況になる」という想像ができなかった。
  • 加えて、協力者(妻)のワクチン副反応による症状の強さも想定できていなかった。
  • 監督者(妻)による作製時のダブルチェックが必要であるという可能性に思い至らなかった。
  • 故に、現状が家庭内にバッファがない状況であることに気づく以前に、「バッファが必要である」こと自体を全く想定できていなかった。
  • 子供が風邪や皮疹などなく数日過ごし、体調がいい状態がようやく保てるようになった。これを得られるまで3ヶ月程度既に経過していたため、「早めに卵黄を食べさせたい」という気持ちがあった。体調が良いのは今だけかもしれない、という焦りがあった。
  • 以前購入した卵の消費期限が迫っており、「早めに作り置きをしなければ」→「アレルギー対策用の卵黄を今日のうちに作ってしまおう」→「今日は子供の体調も良いし、せっかくだから今夜試してみよう」、という発想に至った。
  • もともとガスを節約し予熱調理を好む傾向があり、最低限固茹で卵になる加熱で良いだろうと考えていた。
  • 病院から指示された「卵黄1/2個」よりも少ない量(例: 1/8個)であれば、アレルゲンとしての影響が出る可能性を考慮しなくてもよいと思った。食材として使用することができ、ワンオペでも対応ができると考えた。

 よって上記の発言とこれまでの分析から、時系列をまとめると以下のような流れであったことが予想されます。

  1. 食物経口負荷試験を実際に見たことで、「けっこう行ける」という心理的安心感を得る。
  2. 卵の消費期限が迫っていた。
  3. 「子供が体調不良ではない」という条件がようやく揃ったため、体調がいい今のうちに食べさせたいという焦りがあった。
  4. 楽観的予測に基づき、ダブルチェックが機能しない状態で作製→実践

 つまり、楽観的予測と時間的焦りにより、ダブルチェック機構が破綻している状況であること、そしてダブルチェック機構が破綻している事により生じうる危険性に気づくことができなかった、と言えるでしょう。

 

 実を言うと、私(妻)側は以前、アレルゲンの早期曝露に関して詳細に調べていた時期がありました。下記は、2020年7月(生後4ヶ月ごろ)に私が作成し、実際にキッチンに掲示していた資料の一部になります。

f:id:FKFKN53:20220210092342p:plain

 そのため、私のほうでは「ゆで時間20分」という知識が身についていましたが、当日(2/8)はワクチン3回目の副反応により、38〜39℃台の発熱が出ており、冷静な対応ができる状況ではありませんでした。

 また夫側についても、「子供が生後6ヶ月になる以前は、過労のために記憶が曖昧」という要因も大きく影響したと考えられます。上記の掲示内容は、鶏卵アレルギーが指摘され完全除去の指示が出されて以降は、掲示を取りやめています。上記を掲示していた期間であれば内容に従うことはできても、掲示もされていない指示書きのその内容を1年以上も覚えておくのは困難だったと考えられます。

 

 せめて私が健康で、かつ、ゆで卵製作以前にコメントができる状況にあれば、「ゆで時間20分にしたほうが良いんじゃない?」と一言伝えることができたと思いますが、その可能性は「卵の消費期限」という時間的制約によって阻害された、と言えます。

 もしくは卵黄を実際に食べさせる前に「どうやって作ったの?」と確認をすることで食い止めることもできたと思われますが、それは発熱により夫にワンオペを任せていたことで、結果的に阻害された形となりました。

 

(3)具体的な解決方法を検索することの困難さ

 今回の件を通して調べ作業をして気づいたのは、「食物経口負荷試験で推奨されている調理方法」に関しては詳細な記載がありましたが、食物経口負荷試験で完全除去から摂取開始になったあとの自宅での推奨調理方法」はみつけられなかった、ということです。

 下記*6には、具体例として「加熱全卵1/8個が摂取可の場合に食べられる可能性の高い食品の量」の記載はありますが、加熱卵黄に関しての記載はありません。

 また、「食物アレルギー診療ガイドライン2021(2021/11/13 発売)」にも加熱卵黄の調理に関する記載はみられませんでした。

 

 このような条件下では、たとえ加熱卵黄の調理方法について調べようと思っても、容易にその答えを得られることはなかったでしょう。負荷試験に使用する食材の調理方法を調べることがもし仮に可能であったとしても、それはあくまで「負荷試験用の調理法だ」と受け止めてしまえば、実践することにつなげるのは難しかったと思われます。

 

 これに関して、いくつかの病院のページなどを参照していましたが、経口負荷試験で食べるものを自宅から持ってきてもらうクリニックなどもあるようです。(調理室の有無なども関係しているのかもしれませんが)

 持参して貰う場合は品質が病院単位で管理できない代わりに、親御さんが「このくらいなら大丈夫」というのを実感しやすいというメリットもあるのかもしれません。

経口負荷試験について | なるせこどもアレルギークリニック

 なお、*7には下記のような記載はありました。

負荷試験食のレシピなどの情報を患者や保護者に提供し、自宅でも摂取できるように工夫する。

 ですので、今回発症後に改めて病院を受診し、調理方法について確認をしたのは重要なポイントだったようです。

 

(4)結論

 振り返ってみて理想を言えば「離乳食での卵黄の始め方を思い出すべきだった」「妻にも余裕があるときに挑戦すべきだった」ということは簡単ですが、それを想起するのにはやや難しくなるような心理的・環境的背景因子がいくつもあったのでは、と考えます。加えて、もしも仮に一度立ち止まってみて、夫自身が「卵黄の完全除去から摂食開始になった場合の調理方法」というのを調べたとしても、それに対する適切な答えは容易には得られません。

 現実的に「離乳食レベルから開始する」ことが実行可能な条件がそろっていたと考えるにはやや困難な状況だったと考えるべきではないでしょうか。

 

10. あとがき

 完全に事故調査委員会かなにかの症例報告のようなブログの内容になってしまいましたが、これはあくまで趣味と実益を兼ねたものとなっております。

 もともと夫自身も、労災事例などの分析を読むのが好きであり、また、番組「メーデー!: 航空機事故の真実と真相」のファンでもあります。私が仕事柄、医療事故についての考え方を叩き込まれているという要素も大きいです。

(「メーデー!ならここまで言及するはずだから、せっかくだし全部書いて!」と夫からの発言もあり、ここまでの長さになりました)

 

 人間である以上、ミスは起こりえます。そしてミスに対して、当事者に責任を追求するだけでは、再発防止に至るとは言い難いです。

 そのミスが構造的な部分から改善できるのであれば、そこから改善を試みることができます。また今回の事例をもとにして、類似事例に対しても再発防止策を事前に準備することができるでしょう。

 

 我々の今回の反省が他の事例の予防に生かされることを願っています。

*1:厚生労働科学研究班による食物経口負荷試験の手引き2020 巻末資料3

*2:坂井 堅太郎: ゆで卵の作成と放置に伴うオボムコイドの卵黄への浸透, アレルギー, 47(11):  1176-1181, 1998

*3:伊藤 節子: 食物アレルギー患者指導の実際, アレルギー, 58(11): 1490-1496, 2009

*4:ゆで卵白1.0gの摂取が可能な鶏卵アレルギー児に対する生の状態で取り分け加熱した卵黄1個の経口負荷試験

*5:厚生労働科学研究班による食物経口負荷試験の手引き2020  実践編

*6:厚生労働科学研究班による食物経口負荷試験の手引き2020  試験後の食事指導

*7:食物アレルギー診療ガイドライン2021 P170, 第9章 食物経口負荷試験(OFC)